星新一

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

絶対音感』の作者が書いた、誰もが知るショートショートの名手星新一の伝記。
星製薬に話がつながってゆくのは予想がつきましたが、星新一の母系は森鴎外につながるとは。
また、SFという新しいジャンル、いや、むしろパラダイムと呼んだほうがいいのか、この本にはこの語は書いていないのですが、新しいパラダイムが立ち上がる時には、ダイレクトに人と出会って対面して言葉を交わしてゆくのがこんなに大事なのか、というところに驚かされました。
私が星新一を読み始めた70年代半ばには、もう小松・筒井ともSFの大御所。「時をかける少女」が「タイム・トラベラー」というタイトルでNHKの少年ドラマシリーズにかかっていて、毎回筒井康隆がバックライトを浴びてタイム・トラベルについての奇談を語るのをおぼろげに覚えています。
だから、SF成立ももう終わった歴史としてしか意識してこなかったので、改めてこの大部でその流れを読めたのはうれしかったです。
読み終わってから不思議だったのですが、SFのテレビ・映画への波及についての言及は大きくありましたが、マンガのほうへは手塚治だけに終っていたのが、ちょっと残念。というのは、日本のSFパラダイムを成立させていった大きな立役者に、萩尾望都も入るのでは、と思うからです。70年代の終わりころ、萩尾氏は漫画エッセイでSF,SFと繰り返していた記憶がありますし、その中で、『星新一氏にお目にかかった、神々しくて絵に出来ない。ぺカーッ!』というコマを見た記憶もあるからです。
マンガまで広げると収拾がつかなくなる、ということかもしれませんが、少年文化の文脈での星新一の重要性は語られているのに、少女文化への波及についても目配りがほしかったなあ、と思いました。
同著者の、もう一冊の星新一本も読んでみなくては。